病気やケガで、会社を1週間、2週間と休むことになったら——その間の給料は、どうなるのでしょうか。
多くの会社では、有給休暇を使い切れば、あとは無給です。休んだ分だけ収入が減ります。
でも、そこには支えがあります。
傷病手当金という制度です。
私はこれまでに、2回受け取りました。そして正直に告白すると——この制度を、私がどうやって知ったのか、もう覚えていません。誰かが教えてくれたわけではないことだけは確かです。
この記事は、「傷病手当金」という言葉を知らない人にこそ読んでほしいと思って書いています。知らなければ検索することもできない制度だからです。
※制度の内容は本記事作成時点のものです。金額や要件は改定されることがあります。実際の手続きは、必ずご自身の加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)にご確認ください。
【誤解】「長期療養の人のための制度」ではありません
まず、いちばん大きな誤解を解いておきます。
傷病手当金と聞くと、「何か月も休職する人が使う制度」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。うつ病や大きな病気で、長期間職場を離れる人のためのもの、というような。
私が受け取ったのは、こういうケースです。
- ある手術での入院(事前の検査入院を含めて2週間弱)
- 新型コロナウイルスに感染したときの、約1週間
どちらも、いわゆる「長期療養」ではありません。2週間、1週間という単位の休みです。
それでも、傷病手当金の対象になります。
4日目から支給されます
仕組みはこうです。
療養のために仕事を休んだ日から、連続した3日間(これを待期期間といいます)を経て、4日目以降の休んだ日について支給されます。
つまり、4日以上続けて休めば、対象になり得るということです。1週間の入院でも、10日間の療養でも構いません。
「そんな短い休みで申請していいのか」と思われるかもしれませんが、制度上、まったく問題ありません。私自身、コロナで1週間休んだときも受け取っています。
制度の基本:いくら、いつまでもらえるか
基本的な部分を整理しておきます。
もらえる金額
支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 3分の2
ざっくり言えば、日給のおよそ3分の2です。
もらえる期間
通算して1年6か月まで。
主な条件
- 健康保険の被保険者であること(会社員・公務員など)
- 業務外の病気やケガであること(仕事中のケガは労災の対象です)
- 療養のため仕事に就けないこと
- 連続する3日間を含めて4日以上休んでいること
- 休んだ期間について給与の支払いがないこと(一部支給の場合は差額)
くわしくは協会けんぽの案内をご確認ください。
【本題】この制度、誰も教えてくれません
ここからが、私がこの記事を書きたかった理由です。
私は、この制度をどうやって知ったのか、思い出せません。
はっきりしているのは、誰かに教わったのではないということです。身近に、この制度を使った人はいませんでした。会社の誰かが教えてくれた記憶もありません。
そして——FPの勉強を始める前の話です。ですから、資格の勉強で知ったわけでもない。
おそらく、自分で何かを調べているうちに行き当たったのだと思います。でも、その経緯は完全に忘れてしまいました。
正直、ここをちゃんと話せたら、この記事はもっと役に立ったはずです。「こうすれば知ることができますよ」と言えたのですから。それが書けないのは、我ながら残念です。
でも、この「思い出せなさ」こそが問題の本質だと思う
ただ、書きながら気づいたことがあります。
思い出せないということは、印象的な出来事がなかったということです。誰かが親切に教えてくれたわけでも、会社から案内があったわけでもない。たまたま自力で拾った——だから記憶に残っていない。
つまり、この制度は「たまたま知る」ものになっているのです。
実際、私は職場やネット上で、使えそうな方にこの仕組みを教えたことが何度かあります。まったく知らなかった方に伝えると、たいへん喜ばれました。
その反応を見るたびに思います。体感として、この制度は知られていない。 そして、誰かが教えてくれる仕組みにもなっていない。
会社の人事が全員に案内してくれるわけではありません。病院が教えてくれるわけでもありません。自分で知るしかない。でも、言葉を知らなければ検索すらできない。
この記事を書いている理由は、そこにあります。
もし知らなかったら、私はどうしていたか
これは、はっきり答えられます。
無給のまま休んでいたと思います。
「有給休暇を使えばいいのでは」と思われるかもしれません。確かに、2〜3日の病欠なら有給で十分です。私もそうします。
でも、それ以上になると話が変わります。
有給休暇は、できるだけ残しておきたい。
これは、働いている方なら分かっていただけるのではないでしょうか。今後、家族の用事があるかもしれない。別の体調不良があるかもしれない。限られた有給を、一度に使い切ってしまうのは怖いのです。
だから、有給を温存しようとすれば——残りは無給で休むしかありません。
傷病手当金を知らなければ、私は間違いなくそうしていました。
実は「待期の3日間に有給を充てる」という手がある
ここで、知っておくと得な点を一つ。
最初の待期3日間は、傷病手当金が支給されません。ただし、この3日間には、有給休暇も土日・祝日も含めてカウントされます。賃金が支払われたかどうかは問われないのです。
ということは——最初の3日に有給を充て、4日目からは傷病手当金を受け取るという形が取れます。
こうすれば、収入が途切れる期間をつくらずに済みます。しかも有給の消費は3日だけ。有給を温存したい気持ちと、制度の活用を両立できるわけです。
私が「有給を使いたくない」と感じていた問題は、実はこの形でかなり解決できます。
申請は、思ったより難しくありませんでした
「手続きが大変そう」と思われるかもしれません。私の実感では、そこまでではありませんでした。
私の場合の流れは、こうです。
① 申請書をダウンロードする
会社経由ではなく、自分で健保に提出しました。協会けんぽであれば、申請書のフォーマットが公式サイトで公開されています。それをダウンロードして使いました。
② 会社に記入してもらう
事業主が記入する欄があります。給与の支払い状況を証明してもらうものです。
③ 医師に記入してもらう
療養担当者(医師)の意見書欄があります。ここはそこまで面倒ではありませんでした。
ただし一点、注意が必要です。私の場合、病気が治ったあとに、証明をもらうためだけに、もう一度病院を訪ねる必要がありました。
治って通院が終わったのに、書類のためにまた行く。ここは正直、少し手間だと感じました。あらかじめ「あとで証明が必要になる」と分かっていれば、最後の通院時にお願いできたかもしれません。これから申請される方は、入院や通院の段階で、病院に確認しておくとスムーズだと思います。
④ 提出する
私の場合、申請は1回で完了しました。
長期療養の場合は月ごとに申請することが多いようですが、私のように短期間で療養が終わったケースでは、まとめて1回で済みます。ここも、身構えなくていい部分です。
【注意】振り込まれるまで、1か月ほどかかりました
ここは、知っておいた方がいい点です。
実際にお金が振り込まれたのは、協会けんぽに申請してから1か月ほど経ってからでした。
つまり、休み始めてすぐに入金があるわけではありません。
申請書は、療養が終わって医師の証明をもらってから提出することになります。そこからさらに1か月。逆算すると、実際に手元に届くのは、休み始めてから2か月近く先になることもあるわけです。
これは意外と重要です。その間の生活費は、自分で持ちこたえる必要があるからです。
制度があることを知っていても、タイミングを知らないと、資金繰りで慌てます。「傷病手当金があるから大丈夫」と思っていたら、当面の生活費が足りなかった——そういうことも起こり得ます。
あてにできるお金だが、すぐには来ない。 ここは、頭に入れておいてください。
「給与の3分の2」は、十分ではない。でも——
金額について、正直に書きます。
3分の2という金額は、もちろん十分ではありません。 さらに、休んでいる間も社会保険料は引かれ続けます。生活水準をそのまま維持できる金額ではない、というのが実感です。
ただ——この仕組みを知らずに、無給で休むのとは、まるで違います。
そして、私にとって大きかったのは金額そのものよりも、「あとでこのお金が入ってくる」と分かっていることでした。
療養中というのは、体調が悪いだけでなく、気持ちも弱くなります。そこに「収入がゼロだ」という不安が乗ってくると、休むこと自体が苦しくなる。
入ってくるお金があると分かっているだけで、心の持ちようがまるで違いました。安心して休める——これが、この制度の一番の価値だと思っています。
【重要】私が使ったときと、いまでは制度が変わっています
ここは正確に書いておきます。
支給期間の数え方が、2022年1月に変わりました。
| 支給期間の数え方 | |
|---|---|
| 改正前(〜2021年12月) | 支給開始日から暦で1年6か月。途中で復職して出勤した期間も、カウントに含まれて消化されていく |
| 改正後(2022年1月〜) | 実際に支給された日を通算して1年6か月。出勤した日は算入されない |
(2020年7月2日以後に支給が開始されたものが対象です)
この違いは、地味に見えて非常に大きいものです。
改正前は、こういうことが起きていました。
復職を試みる → 体調が戻らず、また休む → その間も1年6か月の時計は進み続けている → 気づけば期限切れ
つまり、「試しに復職してみる」ことが、そのまま不利になる制度だったわけです。結果として「完全に治るまで戻らない方が得」という、療養の実態に合わない構造になっていました。
改正後は、出勤した日は消化されません。復職を試して、うまくいかずまた休んでも、残り日数はちゃんと残ります。
「途中で戻ってみる」ことのペナルティが外れた——私はこの改正を、そう理解しています。復帰と療養を繰り返すような病気の方にとっては、とりわけ大きな変化だと思います。
対象にならない人もいます
見落とせない点として、この制度が使えない人についても書いておきます。
国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。
つまり、自営業やフリーランスの方は、原則として受け取れないのです。病気で働けなくなったとき、収入がそのまま止まります。
以前、フリーランスと会社員+副業の手取りを比較した記事を書きました。そこでも触れましたが、会社員の社会保険には、金額に表れない価値があります。傷病手当金は、その代表格です。
「独立すれば手取りが増える」と単純に考えるのが危ういのは、こういう部分が抜け落ちるからだと思っています。
なお、退職後も受け取れる場合があります。退職日までに継続して1年以上健康保険の被保険者期間があり、退職時に傷病手当金を受けている(または受けられる状態にある)場合は、継続して受給できます。これも知らない人が多い部分です。
公的保障を知ると、民間保険は減らせる
最後に、この制度を知ったことが、私のお金の考え方をどう変えたかを書きます。
私は以前、生命保険を見直して月5,000円弱を削減したという記事を書きました。医療保険は、入院と手術を経験したあとに解約しています。
就業不能保険についても、私は必要ないと整理しました。
理由はシンプルです。
- 高額療養費制度があるので、医療費で破産することはない
- 長期で休むときには、傷病手当金がある
この2つの公的保障を知ったうえで、それでも足りない部分がどれだけあるかを考える。それが「必要保障額」を出すということです。
そして私は、こう決めました。
保険に入る代わりに、その分を毎月貯蓄しておく。非常時は、そこから払い出す。
保険料は、何もなければ戻ってきません。でも貯蓄なら、使わなければ残ります。公的保障が土台にあるなら、上乗せは自分の貯蓄でいい——これが今の私の結論です。
逆に言えば、公的保障を知らないまま保険を検討すると、確実にかけすぎます。 保険を売る側が、傷病手当金や高額療養費を詳しく説明してくれるとは限りません。
まとめ
- 傷病手当金は、長期療養の人だけの制度ではない。4日以上休めば対象になり得る
- 私は2週間弱の入院と、コロナで1週間休んだときに受け取っている
- 金額は日給のおよそ3分の2、期間は通算1年6か月
- 待期の3日間には有給休暇も含められる。最初の3日に有給を充てれば、収入の空白を作らずに済む
- 申請は自分で健保に出せる。会社と医師の証明が必要。短期なら1回で完了する
- ただし振り込みは申請から1か月ほど後。すぐには入らないので、当面の生活費は別に必要
- 2022年から支給期間が通算化され、途中で復職しても残日数が減らなくなった
- 国民健康保険にはこの制度がない(自営業・フリーランスは対象外)
- 公的保障を知れば、民間保険は減らせる
そして、最後にもう一度書いておきます。
この制度は、誰も教えてくれません。
私自身、どうやって知ったのか思い出せないほど、偶然に近い形で拾いました。もし知らなければ、無給のまま休んでいたはずです。
知らない制度は、自分にとって存在しないのと同じです。
もしあなたが、これから何日か会社を休むことになりそうなら——「傷病手当金」という言葉を、頭の片隅に置いておいてください。それだけで、いざというときに検索できます。
そして、周りに休んでいる人がいたら、教えてあげてください。私が教えた人たちは、みんな驚いて、そして喜んでくれました。

