同世代の貯蓄額に関する統計記事を目にしました。
50歳代・二人以上世帯の金融資産は、平均1,908万円、中央値700万円。
正直に言えば、私はこの手の数字を、つい読んでしまいます。
ただ、ここで自分でも引っかかったことがあります。私は以前、他人の資産は気にしないという記事を書いているのです。比べても仕方がない、心が乱れるだけだ、と。
それなのに、同世代の貯蓄額の統計は気になる。これは矛盾ではないか。
——今回は、その引っかかりから書き始めてみます。統計の中身を確認しつつ、50代の当事者として感じたことを、率直に書いていきます。
まず、私の中では矛盾していません
先に結論を書いておきます。私の中で、この2つは別のものです。
「他人の資産は気にしない」と書いたとき、私が想定していたのは個人です。
あの人がいくら持っているのか。うらやましい。自分はどうなのか——こういう気持ちは、正直、もうほとんど湧かなくなりました。年齢を重ねたからか、あるいは比べても何も変わらないと分かったからか。
一方で、同世代全体が、いまどういう状況にあるのか。これは、まったく別の話だと思っています。
- 個人と比べる → 感情が動くだけで、何も生まれない
- 全体の傾向を知る → 社会の状況が分かる。自分の前提を点検できる
前者は隣の芝生を眺める行為ですが、後者は自分が立っている地面を確認する行為です。似ているようで、まるで違います。
世代別の貯蓄額は、さまざまなメディアで時々取り上げられるテーマです。今回の記事も、全体的な空気感を確認できたという点で、私にはタイムリーでした。
統計の中身:50代の貯蓄はいくらか
まず、記事の要点を整理しておきます。出典は、金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」です(5,000世帯を対象)。
50歳代・二人以上世帯
| 金額 | |
|---|---|
| 平均 | 1,908万円 |
| 中央値 | 700万円 |
| 差 | 1,208万円 |
分布の両端
- 金融資産非保有:18.2%
- 3,000万円以上:18.8%
年代別の推移
| 年代 | 平均 | 中央値 |
|---|---|---|
| 40歳代 | 1,486万円 | 500万円 |
| 50歳代 | 1,908万円 | 700万円 |
| 60歳代 | 2,683万円 | 1,400万円 |
| 70歳代 | 2,416万円 | 1,178万円 |
40代から50代の10年で、中央値は200万円しか増えていません。年20万円ペースです。そして60代で退職金により跳ね上がり、70代で取り崩しにより減っていく——数字の上では、そういう形をしています。
率直な感想:中央値700万円は、十分な金額ではない
数字を見た私の率直な感想は、「やはり、あまり多くないな」でした。
中央値700万円。これは、50代の真ん中に立つ人の金額です。
先日、老後のお金を取り崩す試算という記事を書きました。65歳から90歳まで、年金だけでは毎月いくら足りないか、という前提を置いて必要額を計算したものです。
そこで出た数字は、こうでした。
- 月5万円不足 → 約855万円
- 月8万円不足 → 約1,368万円
- 月10万円不足 → 約1,711万円
中央値700万円は、一番軽い「月5万円不足」のケースにすら届いていません。
もちろん、ここに退職金や年金が加わりますし、50代からまだ積み増す時間もあります。ですから「絶望的だ」と言いたいわけではありません。
ただ——SNSで見かける華やかな世界とは、まるで違う現実がある。それははっきりしていると思います。
【注意①】「金融資産非保有18.2%」は、貯金ゼロではない
ここからは、数字を読むときの注意点です。私自身、危うく誤解しかけました。
「金融資産非保有18.2%」——この数字だけ見ると、「50代の5人に1人が貯金ゼロ」と思ってしまいます。
でも、違うのです。
元記事によれば、非保有と答えた世帯の内訳はこうでした。
- 預貯金口座に残高がある:48.4%(その平均は480万円)
- 口座はあるが残高なし:32.3%
- 口座を持っていない:19.4%
つまり、非保有と答えた世帯の約半数は、平均480万円の預貯金を持っているわけです。
なぜこうなるのか。この調査における「金融資産」の定義にあります。
預貯金のうち、「日常的な出し入れ・引落しに備えている部分」は金融資産に含まれず、「運用のため、または将来に備えて蓄えている部分」だけが計上されるのです。
だから「金融資産非保有」は、「貯金ゼロ」ではなく「将来に備えた資産がない」という意味になります。生活口座にお金はあるけれど、将来のために取り分けた部分はない、という状態です。
さらに一歩踏み込むと
ここで、私はこう考えました。
非保有世帯にも生活資金が平均480万円あるということは——保有世帯にも、金融資産とは別に生活資金があるはずだ。
調査の定義上、これは当然そうなります。中央値700万円という数字は、日常の生活資金を含んでいないのです。
とすれば、実際の手元のお金は、700万円よりもう少し多いと考えるのが自然です。(どのくらい上乗せされるかは調査からは分かりませんので、あくまで推測ですが)
同じ数字でも、定義を確認するだけで、全体の見え方が少し変わってきます。
【注意②】「50代」でひとくくりにはできない
もう一つ、私が引っかかった点があります。
50歳と59歳では、まったく違うのではないか。
考えてみてください。
- 59歳の人は、1980年代後半の好景気を、ぎりぎり知っている世代です
- 50歳の人は、1990年代後半——景気が陰り、就職状況が悪化していた時期に社会へ出た世代です
社会に出たときの環境が、まるで違います。初任給も、その後の昇給カーブも、転職市場の状況も一定程度違ったはずです。
そして年代別の推移を見ると、この推測を裏づけるような形が見えます。60歳代の平均が2,683万円まで跳ね上がっているのは、退職金の受け取りが大きいでしょう。だとすれば、50代の平均1,908万円も、50代後半の層が押し上げている可能性が高いのではないでしょうか。
私としては、10歳区切りではなく、45〜55歳、55〜65歳のような区切り方をした方が、特徴がはっきり出るように思います。
資産が少ない、もう一つの理由
なぜ50代の中央値がこの水準なのか。私は、若い頃に給与の伸びが小さかったことが確実に影響していると考えています。
働いても、収入がなかなか増えない。この時期が長く続きました。資産形成というのは、収入から支出を引いた残りを積み上げる作業です。その「残り」が小さければ、どれだけ意識が高くても積み上がりません。
これは、個人の努力不足だけの問題ではないと思います。
【注意③】「60代で増える」構図は、これから崩れるかもしれない
そして、この統計を読むうえで最も重要だと私が考えているのが、この点です。
60代で平均2,683万円まで増える。その主因は退職金です。
でも——これから先も、同じことが起きるでしょうか。
従来のようなまとまった退職金を受け取れない人は、確実に増えていくはずです。退職金制度そのものを持たない企業もありますし、確定拠出年金への移行も進んでいます。
そうなると、高齢期に資産が増えない人が増えることになります。今の70代・60代のデータは、これからの50代にそのまま当てはまらない可能性があるのです。
そして、これは私自身の話でもあります。
私は、リタイアするとき、会社からまとまった退職金がもらえない見込みです。
だから私にとって、60代で資産が跳ね上がるというこのグラフは、自分の未来図ではありません。ここは、はっきり自覚しておくべき点だと思っています。
結局、統計は「出発点」にしかならない
ここまで見てきて、私がたどり着いた結論はこれです。
統計は、自分の位置を測る物差しにはならない。でも、自分の前提を点検するきっかけにはなる。
今回の数字から、私が受け取ったのはこういうことでした。
- 中央値700万円という全体の空気感が分かった
- 「非保有」の意味を知り、数字は定義を確認しないと誤読すると再確認した
- 50代をひとくくりにできないこと、退職金の前提が崩れつつあることに気づいた
どれも、自分の順位を知る話ではありません。自分の前提を点検する話です。
そして、点検した結果として必要になるのは、結局これでした。
自分の数字で、自分で計算すること。
以前、老後のお金を見える化した記事で書きましたが、必要なのはねんきん定期便と、今の生活費です。この2つがあれば、自分の不足額は出せます。
平均1,908万円も、中央値700万円も、あなたの必要額ではありません。
年金の受給見込み額も、生活費も、退職金の有無も、住まいの状況も、人によってまるで違います。だから統計は、「そろそろ自分の数字を確かめてみるか」と思うきっかけとして使うのがちょうどいい。私はそう考えています。
まとめ
- 50代の金融資産は平均1,908万円/中央値700万円(J-FLEC 2025年調査)
- 中央値700万円は、決して十分な金額ではない。SNSで見る世界とは違う現実がある
- 「金融資産非保有18.2%」は貯金ゼロではない。生活用の預貯金は集計から除かれている
- 「50代」でひとくくりにはできない。50歳と59歳では、社会に出た環境がまるで違う
- 60代で資産が増える構図は、退職金の変化でこれから崩れる可能性がある
- だから統計は順位表ではなく、自分の前提を点検するきっかけとして使う
個人と比べるのは意味がない。でも、全体の傾向を知ることには意味がある。
私の中では、この2つはきれいに分かれています。そして、傾向を知ったあとにやることは、いつも同じです。自分の数字を、自分で確かめる。 それだけだと思っています。

