年金だけで月10万円足りないなら、65歳でいくら必要?90歳まで運用しながら取り崩す試算をグラフにしてみた

お金

「老後2,000万円問題」という言葉は有名になりました。でも、この数字はあくまで一つのモデルケースです。

本当に知りたいのは、そこではないはずです。

自分の場合は、いくら必要なのか。

そこで今回は、条件をはっきり決めて計算し、グラフにしてみました。

ポイントは2つあります。

①「90歳まで生きる」前提で計算する
②65歳時点の資産を、運用しながら取り崩す

この2つで計算してみたところ——思っていたより、必要額は小さいという結果になりました。

※これは一定の前提を置いたモデル試算です。実際に必要な金額は、年金額・生活費・家族構成・住まいなどによって大きく変わります。投資の勧誘や、特定の商品を推奨するものではありません。


なぜ「90歳まで」で計算するのか

最初に、寿命の前提について書いておきます。

この手の試算では、85歳までで計算されることがよくあります。しかし調べてみると、65歳の男性の約半数は85歳以上まで、女性の約半数は90歳以上まで生きるとされています。

つまり、85歳という前提は、半分の人にとって足りないということです。

備えを考えるうえで、足りなくなる可能性が半分もある前提を使うのは危ういと考えました。そこで今回は、90歳まで(25年間)で計算します。

いわゆる「長生きリスク」です。長生きはめでたいことのはずなのに、お金の面ではリスクとして扱われる。皮肉な話ですが、備えとしては直視するしかありません。


試算の前提

条件を固定します。

項目 設定
年金の受給開始 65歳から
想定する寿命 90歳(25年間)
年金だけでは足りない額 月10万円 / 月8万円 / 月5万円 の3ケース
運用利回り 年5%(毎月複利)
取り崩し方 65歳時点の資産を運用しながら、毎月一定額を取り崩す
ゴール 90歳でちょうどゼロになる金額を求める

考慮していないものもはっきり書いておきます。

  • インフレ(物価が上がれば、必要額はもっと増えます)
  • 税金・手数料(NISA内なら非課税ですが、課税口座なら運用益に約20%かかります)
  • 年金額の変動、介護費用などの臨時支出

つまり、これは「うまくいった場合」の数字です。この点は後半で詳しく触れます。


【結論】65歳時点で必要な金額

計算結果です。

毎月の不足額 年利5%で運用しながら取り崩す 運用せずそのまま取り崩す 差
月10万円 約1,711万円 3,000万円 ▲1,289万円
月8万円 約1,368万円 2,400万円 ▲1,032万円
月5万円 約855万円 1,500万円 ▲645万円
65歳時点で必要な金額の比較グラフ

月10万円不足するケースで見てみます。

単純に足し算すれば、10万円 × 12か月 × 25年 = 3,000万円。かなりの金額です。

ところが、運用しながら取り崩せば1,711万円で足ります。その差、1,289万円。

必要額が、4割以上少なくて済むという計算になります。

そして月5万円の不足なら、855万円。90歳まで生きる前提でこの金額なら、手が届かない数字ではない——正直、私はそう感じました。


残高はどう減っていくのか

その1,711万円は、25年かけてどう減っていくのか。グラフにしました。

年利5%で運用しながら取り崩した場合の残高推移

(オレンジの点線は参考ケースです。あとで説明します)

注目してほしいのは、カーブの形です。

3本とも、最初はゆるやかに減り、後半になるほど急に落ちていきます。

理由は単純です。残高が大きいうちは、運用で増える金額も大きいから。1,711万円の5%は年間約86万円。一方、取り崩すのは年120万円。差し引き34万円しか減りません。

75歳の時点でも、まだ1,300万円以上残っています。10年使って、減ったのは400万円ほどです。

ところが残高が減ってくると、運用で増える分も小さくなる。最後の数年は、ほぼ取り崩した分だけまっすぐ減っていきます。

前半の「思ったより減らない」に油断してはいけない、ということです。


【参考】もし「2,000万円」あったら、何歳までもつのか

ここで、例の「老後2,000万円」を、そのまま当てはめてみましょう。

65歳時点で2,000万円を持っていて、月10万円ずつ取り崩す。 グラフのオレンジの点線が、このケースです。

結果は——約101歳でゼロになります。

そして90歳の時点では、まだ1,007万円も残っています。

正直、この結果には私も驚きました。「2,000万円では老後を乗り切れない」というような論調も見かけますが、月10万円の取り崩しなら、100歳を超えるまでもつという計算になるのです。

なぜ、こんなにもつのか

理由は、運用益と取り崩し額が、ほぼ釣り合っているからです。

  • 2,000万円を年5%で運用 → 年間100万円、月あたり約8.3万円
  • 取り崩すのは 月10万円

差し引き、実質的に減っているのは月1.7万円ほど。年間で20万円ちょっとです。だから、なかなか減りません。

ここから、もう一つ大事なことが分かります。

もし取り崩しが月8.3万円以内なら、理論上、元本は減りません。

運用で増える分だけを使う形になるからです。この「取り崩しても減らないライン」を意識できると、老後の資産設計はかなり見通しが良くなります。

もちろん——これは年5%が続けばの話です。ここは次の章で、あらためて釘を刺しておきます。


【発見】5年長く生きても、必要額は195万円しか増えない

今回の試算で、私が一番「なるほど」と思ったのがここです。

85歳までと、90歳までで比べてみました。

毎月の不足額 85歳まで(20年) 90歳まで(25年) 増加分
月10万円 1,515万円 1,711万円 +195万円
月8万円 1,212万円 1,368万円 +156万円
月5万円 758万円 855万円 +98万円

5年も長く生きる想定にしたのに、必要額は195万円しか増えていません。

一方、運用しない場合はどうか。2,400万円 → 3,000万円で、600万円増えます。

つまり——

運用しながら取り崩すことは、「長生きリスク」への耐性そのものになる。

期間が長くなるほど、複利が働く時間も長くなるからです。実際、運用の有無による差は、85歳想定では885万円でしたが、90歳想定では1,289万円まで広がります。

「長生きしたらどうしよう」という不安に対して、期間を延ばしても必要額があまり増えないというのは、かなり心強い事実だと思いました。


【重要】年利5%は「保証」ではありません

ただし——ここが、この記事で一番強調したい点です。

年利5%という数字を、確定したもののように扱ってはいけません。

理由は2つあります。

①そもそも5%は保証されていない

過去の実績から「全世界株式なら年5〜7%程度」という話はよく聞きます。ただ、これは長期の平均であって、約束ではありません。5年連続でマイナスになる可能性も、当然あります。

②【落とし穴】同じ平均5%でも、「順番」で結果が変わる

これは意外と知られていない、しかし取り崩しでは決定的に重要な点です。

積み立てている時期は、順番はあまり関係ありません。最終的な平均リターンが同じなら、結果もだいたい同じになります。

ところが——取り崩している時期は、順番が結果を大きく左右します。

考えてみてください。取り崩しを始めた最初の数年で相場が大きく下がったらどうなるか。

  • 資産が目減りしている
  • その目減りした資産から、さらに生活費を引き出す
  • 元本が大きく削れる
  • その後に相場が回復しても、回復する元本自体が減ってしまっている

結果として、平均リターンは同じ5%でも、資産が予定より早く尽きることがあり得るのです。逆に、最初の数年が好調なら、余裕を持って終えられます。

取り崩し期には、「いつ暴落が来るか」という運の要素が入ってくる。 今回のグラフは、あくまで「毎年きれいに5%増える」という、現実にはあり得ない前提で描かれたものです。


【考察】暴落が来たらどうなるか。だから「2,000万円」が安心ラインだと思う

では、実際に暴落が来たら何が起きるのか。計算してみました。

途中で株価が30%下落したと仮定します(下落後も、そこから年5%で運用する前提。急回復は見込みません)。

65歳時点の資産 暴落なし 70歳で▲30% 85歳で▲30%
1,711万円(90歳でゼロになる設計) 90歳 81歳で枯渇 88歳で枯渇
2,000万円 101歳 86歳 95歳

1,711万円のケースは、70歳で暴落に遭うと81歳で尽きます。 予定より9年も早い。これが、前章で書いた「順番リスク」の正体です。

本当に怖いのは、80代後半です

そしてもう一つ、見落としてはいけない点があります。

1,711万円で始めた場合、残高はこう推移します。

  • 85歳 → 530万円
  • 87歳 → 334万円

「90歳でちょうどゼロ」という設計は、裏を返せば終盤の残高が極端に薄いということです。

ここで、80代後半に下落トレンドが来たらどうなるか。85歳で30%下落すれば、530万円は371万円になります。 そこから毎月10万円を引き出し続けるわけです。

しかも——この年齢では、もう働いて取り返すことができません。 相場の回復を待つ時間的な余裕もない。

想像してみてください。残高が数百万円まで減った状態で、資産が目減りしていくのを毎日見ている。 これは、お金の問題であると同じくらい、精神の問題だと思います。

計算上は足りていても、その状態で穏やかに暮らせるかは別の話です。

2,000万円なら、余裕が生まれる

一方、2,000万円で始めた場合はどうか。

  • 85歳でも1,315万円残っている
  • 仮にそこで30%下落しても、920万円
  • それでも95歳までもつ

同じ暴落に遭っても、精神的な余裕がまったく違います。

理由は、前に書いたとおりです。2,000万円なら運用益(月約8.3万円)と取り崩し額(月10万円)がほぼ釣り合っているため、元本がなかなか削れません。「使いながら、ほとんど減らない」状態を保てるのです。

だから私は、こう考えるようになりました。

「90歳でちょうどゼロ」を目指す設計は、危うい。

ぴったり足りる金額は、バッファがゼロということです。前提が少しでも崩れれば、そのまま足りなくなる。そして老後は、前提が崩れたときにやり直しが利かない時期でもあります。

目指すべきは「ちょうど足りる額」ではなく、「多少崩れても持ちこたえる額」。 今回の試算で言えば、65歳時点で2,000万円というのは、月10万円不足のケースにおいて、かなり現実的な安心ラインだと感じました。

「老後2,000万円問題」というフレーズは不安を煽る文脈で使われがちですが、数字を追ってみると、この2,000万円という水準自体は、意外と的を射ているのかもしれません。


利回りが変われば、必要額はこう変わる

「では、利回りが違ったらどうなるのか」——90歳想定で計算しました。

想定利回り 月10万円不足 月8万円不足 月5万円不足
0%(運用なし) 3,000万円 2,400万円 1,500万円
1% 2,653万円 2,123万円 1,327万円
3% 2,109万円 1,687万円 1,054万円
5% 1,711万円 1,368万円 855万円
7% 1,415万円 1,132万円 707万円

利回りが3%だった場合、月10万円不足なら2,109万円必要です。5%想定の1,711万円より、約400万円多く必要になります。

5%を前提に1,711万円だけ用意して、実際は3%だった——このとき何が起きるか。 お金は90歳より前に尽きます。

だからこそ、「5%で計算したから大丈夫」ではなく、「低めの利回りでも足りるか」を見ておく方が安全です。私は、3%程度で試算しておくくらいがちょうどいいと考えています。


実は、一番効くのは「不足額そのものを減らす」こと

ここまで運用の話をしてきましたが、結論の表をもう一度見てください。

  • 月10万円不足 → 1,711万円
  • 月5万円不足 → 855万円

毎月の不足を5万円減らすだけで、必要額がちょうど半分になります。

利回りを5%から7%に上げても、必要額は1,711万円から1,415万円へ、296万円減るだけです。それに対して、不足額を月5万円減らせば856万円も減る。

つまり——

運用でどうにかしようとするより、「毎月いくら足りないか」を小さくする方が、はるかに効きます。

しかも、運用利回りは自分ではコントロールできませんが、支出はある程度コントロールできます。確実性がまるで違うのです。

そして、そのためにはまず自分の不足額を知る必要があります。私自身の老後のお金を見える化した話でも書きましたが、必要なのはねんきん定期便と、今の生活費。この2つが分かれば、不足額は出せます。


不足額を減らす、3つの現実的な方法

① 年金を増やす(繰下げ受給)

年金の受給開始を遅らせると、1か月あたり0.7%増額されます。70歳まで繰り下げれば42%増、75歳なら84%増です(日本年金機構)。

70歳繰下げの損益分岐点は81歳11か月あたりとされています。90歳まで生きる前提なら、繰下げた方が有利という計算になります。

ただし、繰り下げている間の生活費は自分で用意する必要があります。繰下げは「働き続けられること」とセットの作戦です。

② 働く期間を延ばす

収入がある間は、そもそも取り崩す必要がありません。取り崩し開始が5年遅れれば、必要額は大きく下がります。

私が会社に依存しない生き方を意識しているのも、突き詰めればここに繋がります。健康とスキルは、そのまま老後資金の代わりになるのです。

③ 固定費を下げる

支出の削減は、一度やれば効果が続く固定費が一番です。私の場合は生命保険の見直しで月5,000円弱を削れました。月5,000円は、25年で150万円です。


計算してみて、私が思ったこと

最後に、この試算をやってみて感じたことを書きます。

思っていたより、必要額は小さかったというのが率直な感想です。

「老後2,000万円」という言葉が独り歩きしているせいか、私はもっと途方もない金額をイメージしていました。しかも今回は、90歳まで生きるという、やや厳しめの前提で計算しています。それでも月5万円の不足なら855万円。決して楽ではありませんが、現実味のある数字です。

そして、5年長く生きても195万円しか増えないという結果には、素直に驚きました。長生きへの漠然とした恐れが、少し軽くなった気がします。

同時に、運用に頼りすぎる怖さも見えました。5%と3%で約400万円も違う。しかも取り崩し期は暴落の順番次第で結果が変わる。「運用すれば大丈夫」と考えるのは危うい、というのが正直な実感です。

そして計算を進めるうちに、数字が足りるかどうかより、「その状態で穏やかに過ごせるか」の方が大事だと思うようになりました。80代後半に残高が数百万円まで減り、そこに下落相場が重なる——計算上は間に合っていても、その日々は不安との戦いになります。余裕は、お金の問題であると同時に、心の問題なのだと思います。

そして何より——この計算は、前提を決めなければ何も出てこないということです。

「老後が不安」と言っているだけでは、いつまでも不安のままです。65歳から、90歳まで、月いくら足りないか。 仮でいいから決めて計算すれば、数字が出る。数字が出れば、そこから引き算ができます。

ちなみに、実際の50代の貯蓄はどうなっているのか。統計では中央値700万円でした。この記事の「月5万円不足なら約855万円」という数字と並べると、少し考えさせられます。その統計をどう読むかは、別の記事で書いています。


まとめ

  • 90歳まで(25年)の前提で計算(85歳では半数の人に足りないため)
  • 月10万円不足なら、65歳時点で約1,711万円(年利5%運用の場合)
  • 2,000万円あれば、月10万円取り崩しても約101歳までもつ(90歳時点で1,007万円残る)
  • 月8万円なら約1,368万円、月5万円なら約855万円
  • 運用せずに取り崩すと月10万円で3,000万円必要。差は1,289万円
  • 5年長く生きる想定にしても、必要額は195万円しか増えない(運用しない場合は600万円増)
  • ただし年利5%は保証ではない。3%なら2,109万円必要
  • 取り崩し期は暴落の「順番」で結果が変わる(70歳で30%下落すると、81歳で尽きる)
  • 「90歳でちょうどゼロ」の設計はバッファがなく、80代後半の残高が薄くなって危うい
  • 目指すべきは「ちょうど足りる額」ではなく「多少崩れても持ちこたえる額」
  • 一番効くのは不足額そのものを減らすこと(月5万円減らせば必要額は半分)

数字は、前提次第で動きます。この記事の金額を鵜呑みにする必要はありません。

大事なのは、「自分の前提」で一度計算してみることです。 そうすれば、漠然とした不安は、輪郭のある課題に変わります。

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